ネイルサロンの施術事故で請求を受けたとき:爪の損傷・アレルギーの初動、保険、示談書

施術のあとに爪が痛む、ジェルでかぶれたと言われたとき、サロンが先にすべきことと、保険、規約、示談書で押さえる点を整理します。

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このページの要点

  • 請求を受けたら、受診の案内と記録が先。責任の有無を断定せず、使った製品名と製造番号を残す。
  • 保険は被保険者と対象業務を約款で確かめる。保険会社の承認の前に賠償を約束しない。
  • 体質・アレルギーの全部免責は無効。身体の損害に上限を付けず、店と施術者の精算上限は店内に限る。
  • 示談は爪の経過を見てから。追加の症状が出たときの扱いを、期間と上限額つきで書く。

最初に結論:請求を受けたら、記録と受診の案内が先、保険の確認が次、示談は爪の経過を見てから

結論

施術後の請求を受けたときの順番は三つです。一つ目は、相手の受診を妨げず、施術の内容と使った材料を記録に残すこと。二つ目は、責任の有無を決める前に、加入している賠償責任保険の約款と事故の通知期限を確かめること。三つ目は、示談を急がず、爪の経過が見えてから、追加の症状が出たときの扱いまで書いて結ぶことです。「アレルギーや体質によるトラブルは一切責任を負いません」という書き方は、お客様が消費者である場合、損害賠償責任の全部を免除する条項として無効になります(消費者契約法8条1項1号・3号)。

「ジェルを替えてから指先がかゆい」「オフのあとから爪が薄くなって痛い」。施術の数日後、予約アプリやLINEにこうした連絡が入ることがあります。その連絡には、返金の希望、治療費や通院の交通費の請求、精神的な苦痛への賠償、口コミへの投稿の予告が、重なって含まれていることも少なくありません。

このページは、連絡を受けたサロンの側が、自店の書類と体制をどう整えておくかという視点で書いています。特定の事故について賠償の有無や金額を判断したり、相手方との交渉を代わって行ったりするものではありません。相手方に出す書面の名義人は、いつもサロンの代表者ご本人です。

先に二つの言葉を説明します。「賠償責任保険」は、サロンが法律上の損害賠償責任を負ったときに、その損害を保険会社が補う保険です。「示談」は、当事者が互いに譲歩して争いをやめる合意で、民法では和解と呼ばれます(民法695条)。

施術前の説明と記録の取り方は施術同意書の作り方、仕上がり不満へのお直しはキャンセル料と無断キャンセル・お直し保証で扱っています。ここでは、身体に損害が出た場合に絞ります。

ネイルサロンで請求につながりやすい事故の型と、責任を負うのは誰か

まず、仕上がりへの不満と、身体の損害を分けて考えます。「思っていたデザインと違う」は、約束した施術をしたかどうかの問題で、お直しや返金で受け止めます。「爪が痛む」「皮膚が荒れた」は身体に生じた損害の問題で、受診の費用や精神的な苦痛への賠償にまで及びえます。

請求につながりやすい事故の型

型よくある経過請求の中身まず確かめること
爪の損傷オフ(除去)や下地のファイルがきっかけで、爪が薄くなった、割れた、剥がれた、痛い治療費、施術料金の返金、爪が生え変わるまでの通院や補修の費用施術前の爪の状態の記録、他店での施術の履歴、オフの方法と所要時間
アレルギージェルなどが触れた指や周囲に、かゆみ、赤み、腫れ、水ぶくれが出る。数時間後から数日後に出ることもある受診費用、仕事を休んだ場合の損害、返金申告書の内容、使った製品名と製造番号、硬化の状態、過去の使用歴
施術中の傷器具で皮膚を傷つけた、出血した、爪の周りが切れた治療費、傷跡への不安に対する賠償当日の経過、器具の使い方と交換、応急手当の記録
熱さ・痛みライトで硬化するときに強い熱さや痛みがあり、施術後も赤みが残る受診費用、返金塗った量と硬化の時間、中止の申し出があったか
衛生・感染の疑い施術のあと、爪の周りが腫れて膿む、爪の色が変わる治療費、衛生管理への不信に基づく請求器具の洗浄と消毒の記録、発症までの時間、ほかに考えられる原因

症状の診断は医療機関の役割です。

責任の根拠は、契約と不法行為の二本立て

事故の責任に関わる民法の規定

  • 民法415条1項施術契約で負う、適切に施術する義務を果たさなかったとき、お客様は損害の賠償を請求できる。サロンの責めに帰することができない事由によるときは除かれる
  • 民法709条・710条故意又は過失によって他人の権利や法律上保護される利益を侵害した者は、損害を賠償する。身体を害した場合は、精神的な損害(財産以外の損害)の賠償も含まれる
  • 民法715条1項事業のために他人を使用する者は、その人が事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する。選任と監督について相当の注意をしたときなどは除かれる
  • 民法418条・722条2項お客様の側に過失があったとき(申告の漏れ、アフターケアを守らなかったことなど)は、裁判所が考慮して、賠償の責任や額を定める

同じ事故が、契約上の責任と不法行為の両面から請求されることがあります。請求を受けたサロンが分けて考えるのは、「施術に過失があったか」と「その施術と症状の間に因果関係があるか」の二点です。爪や皮膚の症状は、ほかの原因(他店での施術、日常の水仕事、体調や持病)と重なることがあり、原因の判断は医療機関の所見によるところが大きくなります。サロンが先に「原因はお客様の体質です」と言い切ることも、「当店のせいです」と認めてしまうことも、避けたい対応です。

請求は、施術のあと、いつまで来る可能性がありますか

請求できる期間の目安

請求の構成期間根拠
契約上の責任(債務不履行)請求できると知った時から5年、請求できる時から10年。人の生命・身体の侵害は、請求できる時から20年民法166条1項、167条
不法行為損害と加害者を知った時から3年(人の生命・身体を害する場合は5年)、不法行為の時から20年民法724条、724条の2

請求は、施術の直後に限らず、症状が長引いたあとに来ることもあります。施術記録、同意書、施術前後の写真の保管期間は、この期間を意識して決めます。一方で、個人データは利用する必要がなくなったときに遅滞なく消去する努力義務があるため(個人情報保護法22条)、保管期間はプライバシーポリシーと合わせます。

雇用スタッフ、業務委託ネイリスト、面貸し:誰が請求を受けるか

働き方ごとの、請求を受ける相手と契約で決めること

働き方お客様から見た相手店の責任契約で決めておくこと
雇用スタッフサロン契約上の責任に加え、使用者としての責任(民法715条1項)。スタッフへの求償は可能(同条3項)だが、実際に求めるかは別に決める事故の報告義務、研修、保険の加入主体
業務委託ネイリスト店名義で予約と決済を受けていれば、サロン契約書の題名が業務委託でも、実際の働き方が雇用に近ければ、店が使用者として責任を問われる余地がある対外的な窓口は店、施術者は初期対応と報告、費用負担と求償、保険の名義(ネイリストとの業務委託契約書)
面貸し(シェアサロン)の利用者施術者本人店が顧客と契約しない形が徹底されていれば、設備など店の管理に属する事項が中心。ただし、予約や決済を店が担い、お客様から店の施術と見える運営では、店への請求を防ぎきれないことがある設備が原因の事故は店、施術に起因する事故は利用者、と書き分ける。利用者の保険加入
無料・モニター施術サロンまたは施術者無料でも施術は行われ、過失があれば責任を問われる同意書で説明と記録を残す(ネイルモニターの契約とSNS集客)

雇用から業務委託に切り替えても、事故の責任が店に残る構造は変わりません。働き方の線引きはサロンスタッフを雇用から業務委託に切り替えるときで扱っています。

請求を受けた日から数日の初動:受診の案内、記録、材料の保全、連絡の言葉

初動の失敗は、責任を早く認めすぎるか、書面を盾に突き放すかです。どちらも事実が固まる前の判断で、あとから直しにくくなります。次の順で進めると、結論を後ろにずらしながら、誠実に対応できます。

請求を受けたときの手順

  1. 症状を聞き、受診をおすすめするいつから、どの指か、写真を送れるかを聞きます。症状の診断はせず、皮膚科など医療機関の受診をおすすめします。費用の話より先に、体の心配を伝えます。
  2. 事実を、一人が時系列で書き出す施術日、メニュー、担当者、使った製品、施術中の訴え、帰り際の様子を書きます。複数のスタッフが関わった場合は、話し合う前に、それぞれが別々にメモします。
  3. 使った材料と器具を残す製品は、容器と製品名、製造番号が分かる状態で残し、写真を撮ります。同じ製品を使い続けるかどうかは、原因が分かるまで慎重に判断します。
  4. 連絡の窓口を一人にするスタッフごとに説明が食い違うのを防ぎます。相手が第三者を通して連絡してきたときは、誰がどの範囲で委任を受けているかを書面で確認します。
  5. 保険会社に事故を通知する約款の通知期限を確かめ、金額の話をする前に連絡します。
  6. お見舞いと、確認の予定を伝える責任の結論は言わず、事実の確認を進めること、結果をいつまでに連絡するかを伝えます。
  7. 次の連絡日を決め、やりとりを残す電話は日時と要点をメモし、メッセージは消さずに保存します。

その日のうちに記録しておく項目

  • 施術日時、メニュー、担当者(雇用か業務委託かも)
  • 来店時の申告内容(アレルギー、爪や皮膚の状態、服薬)と、同意書の版
  • 施術前の爪の状態の写真(撮っていた場合)
  • 使った製品名、製造番号、ライトの種類と硬化の時間
  • 施術中の訴え(熱い、痛い、かゆい)と、その場の対応
  • 施術後に渡したアフターケアの案内
  • 相手から連絡があった日時、症状の内容、受け取った写真
  • 相手に伝えた内容と、次の連絡の約束

最初の返信と、その後の言い方

最初の返信

変更前同意書にご署名をいただいているので、当店では責任を負いかねます
変更後お体の状態が心配です。まず皮膚科などの受診をおすすめします。施術の内容と使った材料を確認して、〇日までにあらためてご連絡します

同意書は、説明した経過を示す資料です。責任の有無を最初に決める道具ではありません。署名があっても、サロンの過失による損害は別に問われます

原因について

変更前原因はお客様の体質です
変更後原因はまだ分かっていません。医療機関の所見も参考にして、確認を進めます

原因を断定すると、あとで事実が違っていたときに対応が崩れます。反対に認めすぎることも避けます

口コミについて

変更前治療費はお支払いしますので、口コミは消してください
変更後費用のお話と、投稿についてのお願いは分けてお伝えします。投稿の削除は強要しません

費用の支払いを投稿の削除と引き換えにすると、威圧と受け取られ、かえって拡散します

診断書や病名を受け取るとき、保険会社に情報を伝えるとき

診断書に書かれた病名やアレルギーの診断結果は、病歴にあたる情報で、要配慮個人情報です(個人情報保護法2条3項)。取得するときは、原則として、あらかじめ本人の同意が必要です(同法20条2項)。書面で直接受け取るときは、利用目的をあらかじめ示します(同法21条2項)。保険会社にお客様の情報を知らせるときは、第三者への提供にあたる場合があり、原則として本人の同意を得ます(同法27条1項)。

利用規約・プライバシーポリシーと同意書に、事故への対応と保険会社への通知のために情報を利用し、提供することがある旨を、あらかじめ書いておきます。

賠償責任保険に入っていれば安心か:入っていても支払われない場面

保険は、サロンに法律上の賠償責任が認められたときに、その損害を補うものです。責任の有無を決めるものでも、お客様との争いを終わらせるものでもありません。支払うかどうかは、保険会社が約款に基づいて判断します。「保険に入っているから大丈夫」と考えて、約款を読まずにいることが、最も多い見落としです。

約款と保険証券で確かめる点

  • 被保険者は誰か(店の代表者だけか、雇用スタッフ、業務委託のネイリストも含むか)
  • 対象の業務(ネイルの施術だけか、まつげや眉のメニューも含むか)
  • 対象の損害(お客様の身体の障害、持ち物の損壊や紛失の別)
  • 支払の限度額と、免責金額(自己負担額)
  • 支払われない場面(故意、契約で加重した責任、施術料金の返金そのもの、効果の保証に関する請求など)
  • 事故の通知期限と、示談の前に保険会社の承認が要るかどうか

重要なのは、最後の点です。賠償責任保険の約款には、保険会社の同意を得ずに賠償責任を認めたり、示談を成立させたりしないことを求める定めが置かれていることが多くあります。サロンが善意で「治療費は全額お支払いします」と約束すると、その部分の保険金が支払われないことがあります。お見舞いと事実確認にとどめ、金額を伝える前に保険会社へ連絡する運用を、あらかじめ決めておきます。

保険と自己負担の分かれ方(仮の数字)

  • お客様に生じた損害の合意額治療費18,000円+通院の交通費3,200円+見舞い・慰謝料に相当する額30,000円+施術料金の返金9,800円合計61,000円
  • 保険の対象になりうる部分治療費、交通費、慰謝料に相当する額の合計51,200円から、免責金額10,000円を引く41,200円
  • サロンの自己負担施術料金の返金9,800円+免責金額10,000円19,800円

数字はすべて仮の例で、慰謝料に相当する額の相場を示すものではありません。施術料金の返金は、代金の返還であって損害賠償ではないとして、保険の対象外とする約款が多いと見られます。実際の取扱いは、証券と約款で確かめます。

スタッフや利用者との契約にある、保険の条項の型

型書き方起きやすい問題整え方
加入を勧めるだけの型賠償責任保険への加入を強く推奨する。未加入で事故があれば全責任を負う推奨にとどまるので、未加入でも契約違反にならず、事故のあとに支払えない加入の有無を契約前に確認し、証券の写しを受け取る
努力義務の型加入に努める。求めがあれば加入状況を知らせる加入していても、対象業務が合っているかを確かめない対象にネイル施術が含まれることを、確認項目に入れる
義務の型対人・対物の保険に加入して維持し、証券を提出する。失効や変更は通知する。違反すれば業務を停止する義務を課す側が、自店の保険の対象を示さないと、重なりや空白が生じる店の保険と利用者の保険が対象とする範囲を並べて、空白を作らない

規約・同意書・スタッフ契約のよくある失敗と直し方

事故に関わる条項には、よく見られる書き方があります。そのうちのいくつかは、事故が起きたときに働かないか、反対にサロンに不利に働きます。

よくある書き方と、直した書き方

体質・アレルギーの免責

変更前施術後のアレルギー反応や体質によるトラブルについて、当サロンは責任を負いかねます
変更後お客様が申告された事項と、当サロンが説明した通常の反応の範囲内で生じた症状は、その反応が生じたことのみをもって施術の誤りとは扱いません。当サロンの過失により生じた損害は、この規約に従って賠償します

損害賠償責任の全部を免除する条項は、消費者契約法8条1項1号・3号で無効です。説明と同意で足りる部分と、責任を負う部分を分けます

お直しの期間と身体の損害

変更前施術から7日を過ぎた場合は、いかなるお申し出にも応じません
変更後ネイルの無料の補修は、施術から一定の日数以内とします。身体に生じた損害のご連絡には、日数にかかわらず対応します

お直しは、契約した内容を整える対応です。身体の損害は別の問題で、期間を過ぎたことだけで責任を免れるように読める書き方は、消費者契約法10条で争われる火種になります

賠償額の上限

変更前賠償額は施術料金を上限とします
変更後持ち物の損害に限り、賠償額は施術料金を上限とします。ただし、当サロン、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失による場合を除きます。身体の損害には上限を設けません

上限を設けるなら、故意又は重大な過失を除くことを、上限を定めるその一文の中に書きます(消費者契約法8条3項)。身体の損害に低い上限を付けると、条項全体への信頼を損ないます

業務委託契約の窓口

変更前お客様からのクレームは、乙が自己の責任で解決する
変更後お客様への対応の窓口は甲(店)とし、乙は応急の対応と報告を行い、甲の指示に従う。乙の過失による損害は乙が、甲の設備や材料、指示による部分は甲が負担する

お客様は、店と契約し、店名義で予約をしたと考えます。窓口を施術者に押し付けると、対応が遅れ、店への請求も防げません

施術者の負担の上限

変更前乙の賠償責任は、直近6か月の報酬を上限とする
変更後乙の負担の上限は、甲と乙の間の精算に限る。お客様に対する甲の賠償責任を制限するものではない。身体の損害は、上限の対象から外す

店と施術者の間の取り決めは、お客様への責任を軽くしません。人身の損害に低い上限を残すと、条項全体が争われる火種になります

シェアサロンの利用規約

変更前利用者及びその顧客に生じた損害について、貸主は一切責任を負わず、利用者は貸主に一切の請求をしない
変更後店の設備が原因で生じた事故は、店が責任を負う。施術に起因する事故は、利用者が責任を負う

設備の欠陥によるけがまで利用者に負担させる片面的な書き方は、貸主の免責全体の有効性を弱めます

利用規約の条文例:施術中・施術後の体調不良と損害

第1項

お客様は、施術中に、痛み、熱さ、かゆみその他の異常を感じたときは、直ちに当サロンに申し出てください。当サロンは、異常を認めたときは、施術を中止し、必要な応急の措置をとります。

第2項

施術後に異常を感じたときは、速やかに当サロンへ連絡し、必要に応じて医療機関を受診してください。連絡が遅れたことのみを理由として、当サロンが責任を免れることはありません。ただし、連絡の遅れにより原因の確認が困難になった事情は、損害の額を定めるときに考慮することがあります。

第3項

お客様が申告した事項と、当サロンが施術の前に説明した通常の反応の範囲内で生じた症状は、その反応が生じたことのみをもって、当サロンの施術に誤りがあったものとは扱いません。

第4項

当サロンの過失により、お客様の身体に損害が生じたときは、当サロンは、治療に要した費用その他の相当な損害を賠償します。

第5項

お客様の持ち物の損壊について、当サロン、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失による場合を除き、当サロンの賠償額は、当該施術の料金を上限とします。

第5項は、上限を定める一文の中に、故意又は重大な過失による場合を除くことを書いています(消費者契約法8条3項)。身体の損害には上限を設けていません。

業務委託契約の条文例:事故の対応と費用

第1項

乙は、施術中又は施術後に、お客様の身体の異常、苦情、事故その他これに類する事態(以下「事故等」といいます。)を知ったときは、拡大を防ぐために必要な応急の措置をとり、直ちに甲に報告します。

第2項

お客様への対応の窓口は甲とします。乙は、甲の指示に従い、事実の確認に協力します。乙は、甲の承諾なく、お客様に対して賠償の約束又は金銭の支払の申出をしません。

第3項

事故等によりお客様に生じた損害のうち、乙の過失による部分は乙が、甲の設備、材料又は指示に原因がある部分は甲が、それぞれ負担します。甲がお客様に賠償したときは、この割合に応じて、乙に求償することができます。

第4項

前項による乙の負担は、甲と乙の間の精算に限り、乙に支払った報酬の直近〇か月分を上限とします。ただし、乙に故意又は重大な過失があるときは、この上限を適用しません。この上限は、お客様に対する甲の賠償責任を制限するものではありません。

第5項

乙は、自己が加入する賠償責任保険の保険会社名、対象とする業務及び保険期間を、契約のときに甲へ知らせ、変更があったときは速やかに知らせます。

第2項は、保険会社の承認の前に金額を約束してしまうことを防ぎます。第4項は、店と施術者の精算の上限であることを、条文の中で明らかにしています。

ヒヤリングで確認すること:保険、記録、働き方、窓口

事故への備えを整える前に確かめる問い

  1. 加入している賠償責任保険は、誰の名義で、ネイルの施術を対象にしていますか。名義と対象業務が合っていないと、事故があっても支払の対象外になります。業務委託や面貸しの施術者は、店の保険の対象に含まれないことがあります。
  2. 事故の通知期限と、示談の前に保険会社の承認が要るかを、約款で確認していますか。承認の前に賠償を約束すると、保険金が減るか、支払われないことがあります。現場のスタッフにも、約束してよい範囲を伝える必要があります。
  3. 施術記録に、使った製品名と製造番号を残していますか。アレルギーの原因を絞り込むときの手がかりになります。記録がないと、原因が分からないまま、サロンが過失を疑われる状態が続きます。
  4. 施術前の爪の状態を写真で残していますか。目的はプライバシーポリシーに書いていますか。「施術で薄くなった」のか「もともと薄かった」のかを、後から確かめる手段になります。利用目的を書いていないと、目的外の利用と指摘されます。
  5. 同意書は、どの版に、いつ署名があったかが分かりますか。版が違うと、説明した内容が食い違います。電子で取る場合は、同意した日時と版の記録が要ります。
  6. 働き方は、雇用、業務委託、面貸しのどれですか。予約と決済は誰の名義ですか。お客様が請求する相手、店の責任の範囲、保険の名義が、ここで決まります。名義と実態が合っていないと、契約書の書き分けが働きません。
  7. 返金や見舞いの金額を決めるのは誰で、スタッフが現場で約束してよい範囲はどこまでですか。金額の決め方がばらつくと、対応の公平さを疑われます。保険との関係でも、約束の窓口を一本にしておく必要があります。
  8. 他店で施術したジェルのオフを引き受けていますか。他店の施術で傷んだ爪を、オフの工程でさらに傷めたと言われる場面があります。引き受けるときの説明と、断る基準を先に決めます。
  9. 未成年のお客様や、無料のモニターの施術はありますか。未成年のお客様との示談は、親権者の関与が要ります(民法5条)。無料のモニターでも、事故の責任は生じます。

示談はいつ結べばよいか:爪の経過に合わせて、追加症状の扱いを決める

示談書の基本の項目(事実の確認、解決金、支払、清算、守秘)は、事故の種類によらず共通です。ネイルの事故に固有なのは、爪が生え変わるまでに数か月かかるとされ、示談の時点では経過が見えにくいことです。示談を急いで「今後一切の請求をしない」と包括的に結ぶと、あとで症状が続いたときに、双方が困ります。

示談の三つの型

型書き方向く場面注意
包括清算型解決金の支払をもって、本件に関する請求を終える。追加の請求は互いにしない症状が軽く、受診が済み、経過がほぼ見えているとき示談の時点で予想していなかった症状まで放棄したと読めるかは、争われる余地がある。症状が続いているなら避ける
追加治療の留保型解決金を支払ったうえで、一定の期間内に同じ症状で治療が必要になったときは、診断書と領収書を示して、上限額まで追加で支払う爪の再生や皮膚の経過が、これから見えるとき期間と上限額を書く。上限を超える事態は、あらためて話し合う
段階型治療が続いている間は、実費をその都度精算し、症状が落ち着いたことを確認してから、最終の示談書を結ぶ通院が続いているとき途中の精算書に、それが最終の合意ではないことを書く

追加治療の留保の例(仮の数字)

  • 示談の時点で合意する額治療費18,000円+通院の交通費3,200円+解決金30,000円+施術料金の返金9,800円61,000円
  • 追加治療の留保示談の日から6か月以内に、同じ症状で治療が必要になったとき、診断書と領収書を示した実費を、上限30,000円まで最大30,000円
  • サロンが負う可能性のある最大額61,000円+30,000円91,000円

留保型の利点は、サロンが負う最大額が、示談の時点で見えることです。包括型にして追加症状の扱いを書かないと、後から症状が出たとき、示談の効力が及ぶ範囲そのものが争われる余地が残ります。

示談書の条文例(要点)

第1条

甲(サロン)と乙(お客様)は、令和〇年〇月〇日の施術(メニュー:〇〇)の後、乙の〇指に〇〇の症状が生じたこと、乙が令和〇年〇月〇日に〇〇医院で受診したことを確認する。この確認は、症状の原因に関する評価を含まない。

第2条

甲は乙に対し、解決金として金〇円(内訳:治療費〇円、通院交通費〇円、施術料金の返金〇円、その他〇円)を、令和〇年〇月〇日までに、乙の指定する口座へ振り込んで支払う。振込手数料は甲の負担とする。

第3条

乙は、この示談の日から〇か月以内に、第1条の症状について追加の治療が必要となったときは、診断書及び領収書を添えて甲に請求することができる。甲は、金〇円を上限として、治療に要した実費を支払う。

第4条

甲と乙は、前2条に定めるもののほか、本件に関し、互いに債権債務がないことを確認する。

第5条

甲と乙は、この示談の内容を第三者に漏らさない。ただし、医療機関、保険会社、公的な相談機関に必要な範囲で説明すること、及び法令に基づき開示を求められたときは、この限りでない。

第5条の例外は、被害の事実を医療機関や相談機関に話すことまで禁じないための書き方です。守秘義務の違反に、解決金より高額の違約金を定める例がありますが、過大な違約金は、賠償額の予定(民法420条)としても、民法90条や消費者契約法10条の面からも争われる余地があります。

未成年のお客様が単独で結んだ示談は、取り消すことができます(民法5条2項)。示談の相手方は、親権者を含めて確認します。示談を結ぶ前には、保険会社の承認が要るかも確かめます。相手方への書面は、サロンの代表者ご本人の名義で出し、発送も本人が行います。

起きがちなこと:事故のあとの動きは、事故の前の書類で決まる

事故が起きてから書面を作っても、説明の経過も記録も保険の確認も間に合いません。説明と記録は施術同意書、免責の書き方は利用規約・プライバシーポリシー、責任分担は業務委託契約書で、事故の前に整えます。

よくあるご質問

お客様から「施術のあとからかゆい」と連絡が来たとき、最初に何を伝えればよいですか。

お体の状態への心配と、皮膚科など医療機関の受診のおすすめを先に伝えます。原因や責任の結論は言わず、施術の内容と使った材料を確認して、いつまでに連絡するかを伝えます。同意書に署名があることを最初に持ち出すのは避けます。

同意書に署名をもらっていれば、治療費を払わなくてよいのですか。

そうとは限りません。同意書は、説明した経過を示す資料です。サロンの過失によって身体に損害が生じたときの責任まで、一律に免れるものではありません。損害賠償責任の全部を免除する条項は、お客様が消費者の場合、消費者契約法8条で無効になります。

賠償責任保険に入っていれば、返金や治療費はすべて保険で払われますか。

約款によります。被保険者や対象業務に含まれていない場合や、施術料金の返金そのものが対象外の場合があります。免責金額という自己負担もあります。保険会社の承認の前に賠償を約束すると、保険金が支払われないことがあるため、金額を伝える前に保険会社へ連絡します。

業務委託のネイリストの施術で起きた事故も、店が請求を受けますか。

店名義で予約と決済を受けている場合、お客様は店と契約したと考えるのが自然です。契約書の題名が業務委託でも、実際の働き方が雇用に近ければ、店が使用者として責任を問われる余地もあります。窓口、費用の負担、求償、保険の名義を、契約書で決めておきます。

示談書は、事故の直後に結んでよいですか。

爪が生え変わるまでには数か月かかるとされ、直後は経過が見えにくい時期です。急ぐ場合は、一定の期間内に同じ症状で治療が必要になったときの追加の支払を、上限額つきで書く留保型にします。包括的な清算にする場合も、保険会社の承認が要るかを先に確かめます。

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