ネイルのシェアサロン・面貸し(ミラーレンタル)の契約書|借りる側・貸す側が決めておくこと

ネイルの席を借りる人と貸す人が、契約書で何を決めておくかを、席料、設備、時間、お客様、退去の順に整理します。条文例と計算例も載せています。

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このページの要点

  • 席料と歩合は、定価・実際に払った額・手数料を引いた額のどれで数えるかを、定義で決める。
  • ライト、マシン、溶剤、においは「危険物」の一語で済ませず、申告・上限・保管・換気で具体的に書く。
  • お客様の帰属、お直し保証、回数券の前払いは、席を離れた後の扱いまで契約書に書く。
  • 事故の責任は原因で分け、保険は施術の事故を補償の対象に含めるかまで決める。

最初に結論:ネイルの面貸しで決めておくのは「席・設備・時間・お客様・終わり方」の5つ

結論

ネイルのシェアサロン(席だけを借りて自分の名前で施術する「面貸し」。ミラーレンタルとも呼ばれます)は、ネイルの施術だけであれば美容師免許や美容所の届出が一般に求められないとされる分、何をどこまで使ってよいかを決めるのは、ほぼ契約書だけになります。借りる側は席料の中身と売上の数え方、ライトや溶剤の扱い、お客様とお直しの帰属、退去の条件を。貸す側は建物の契約との整合、席が専用になっていく運用の管理、事故の線引きと保険を、条文で決めておきます。

ネイルは、施術が1件に数時間かかることも珍しくなく、電気を使い、粉とにおいが出て、同じお客様が数週間ごとに通い続けます。席を借りるネイリストと、席を貸すオーナー(美容室やエステサロンの一角にネイル席を置く店も含みます)の両方に向けて、契約書の見どころを説明します。契約書型と規約型の選び方や責任分担の総論はシェアサロン利用契約書・利用規約の作り方、売上歩合の精算の一般的な組み方はシェアサロンの料金プランと売上歩合の精算で解説しているため、ここではネイルに固有の論点に絞ります。

まつげなど別のメニューが同じ席で行われるときは、資格と届出の問題が別に生じます(ネイルサロンでまつげエクステ・眉毛メニューを始めるとき)。ネイルだけの場合の整理はネイルサロン・自宅ネイルサロンの始め方にあります。

席を借りるのか、仕事を請けるのか:契約の形を先に決める

最初に決めるのは、施術者が自分のお客様に自分の名前で施術して席の対価を払う形(面貸し)か、店が受けた仕事を施術者に任せて店が報酬を払う形(業務委託、働き方によっては雇用)か、という向きです。契約書の題名ではなく、現場の運用で判断されます。

現場の事実で見る、席貸しと業務委託・雇用の分かれ目

現場の事実席貸しに近い業務委託・雇用に近い
予約施術者が自分の窓口で受ける店が受けて施術者に割り振る
料金施術者が決める店のメニュー表に従う
苦情の窓口施術者本人店が受けて返金を判断する
休みと時間施術者が席を予約して決める店がシフトを決め、休みは許可制
お金の流れ施術者が店に席料を払う店が施術者に報酬を払う

右の列に寄る事実が重なるほど、席貸しの名目でも実態は店の仕事を請けている、あるいは店に使用されている働き方と評価されやすくなります。

労働基準法9条は、事業又は事務所に使用される者で賃金を支払われる者を「労働者」と定めており、席料という名目でも、実態が使用される形なら労働者と評価される余地があります。店から報酬を払う形に切り替える場合の考え方はサロンスタッフを雇用から業務委託に切り替えるとき、契約書の組み方はネイリストとの業務委託契約書・秘密保持契約書、稼働日や欠勤の決め方は業務委託ネイリストの稼働日・欠勤・最低報酬保証で説明しています。

席が「専用」になっていくと、賃貸借に近づく

ネイルは道具が多く、棚やワゴンに置きっぱなしにしがちです。同じ曜日に同じ席を使い続けると、数か月後には実質的にその施術者だけの席になります。民法601条は、賃貸借を、物の使用と収益をさせることを約し、相手方が賃料を払うことを約する契約と定めています。席を継続して専用で使わせ、その対価を取る形が強まるほど、題名にかかわらず賃貸借に近い関係と見られる余地が出ます。そうなると借りた側を守る法律(借地借家法)が問題になり、オーナーが席を空けてほしいと言っても思いどおりに終えられないおそれがあります。席の指定は予約ごとに店が行う、時間外は道具を置かない、といった運用を契約の前提に合わせて見直すことが大切です。

オーナーが建物を借りている場合は、その契約で第三者に使わせてよいかも確認します。民法612条は、賃借人は賃貸人の承諾なく転貸できず、違反して第三者に使わせたとき賃貸人は契約を解除できると定めています。貸す側は大家の承諾を書面で取り、借りる側は「大家の承諾はありますか」と最初に聞いておきます。

この節で押さえる条文

  • 消費者契約法2条1項事業のために契約をする個人は「消費者」から除かれる。事業のために席を借りるネイリストは、個人でも同法の保護の対象にならない
  • フリーランス法2条3項2号事業者が事業のために他の事業者へ役務の提供を委託する形が「業務委託」。席料を払って自分のお客様に施術する形が当たるかは実態による

席の利用の性質を確認する条文例(ネイル席)

第1項

乙は、自己の名義及び責任において顧客と施術の契約を結び、自己の事業として、甲が運営する施設(名称:〇〇、所在地:〇〇)のうち、甲が指定する席及び共用部分を、予約した時間に限り使用する。

第2項

乙は、前項の席について、占有権、賃借権その他の使用の権利を取得しない。席の指定は、予約ごとに甲が行う。

第3項

乙が席の周辺に置くことができる物は、甲が指定するロッカー及びワゴンに収まる範囲の道具及び材料に限る。乙は、予約の時間外に、道具及び材料を席に置いたままにしてはならない。

「貸与」「賃料」「専有」といった賃貸借を思わせる言葉は、席貸しの契約書から外しておきます。

席料と歩合は、何を基準に数えるのか

席料の型は、月額固定、月額に売上の歩合を足す型、時間制の三つです。ネイルでは、電気の使用量が見えにくいことが争いの種になります。席料に含まれるのは、電気、水道、通信、備え付けの備品、共用の消耗品のうちどれか、含まれないのはジェル、ポリッシュ、チップ、コットンのうちどれかを、並べて書きます。金額は、税込か税別かをどちらかに決めて明記します。

歩合の「売上」を、定義で決める

歩合を取る型では、「売上」の意味があいまいなまま始まるのが、金額にいちばん響く落とし穴です。ネイルのお客様は、予約サイトのクーポン、ポイント、紹介割引、アートの追加、オフの別料金、物販、キャンセル料と、支払いの形がさまざまです。値引きは定価で数えるのか実際の支払額で数えるのか、決済の手数料を引くのか、物販やキャンセル料を含むのか、返金は返金した月に引くのかを、一つずつ決めます。

歩合の数え方で金額がどう変わるか(仮定の数字)

  • 席料30,000円+歩合15%。ある月の施術の定価の合計260,000円、クーポン等の値引き20,000円、決済手数料5,000円定価で数える:260,000円×15%=39,000円席料と合計69,000円
  • 同じ月を、お客様が実際に払った額で数える240,000円×15%=36,000円席料と合計66,000円
  • 同じ月を、手数料を引いた入金額で数える235,000円×15%=35,250円席料と合計65,250円

同じ月、同じ施術でも、数え方で月に最大3,750円、1年で45,000円の差が出ます。値引きを店が負担していないのに定価で数えると、施術者は受け取っていない金額にまで歩合を払うことになります。

売上と歩合の精算の条文例

第1項

本契約において「売上」とは、乙が席で行った施術及び乙が販売した商品について、顧客が実際に支払った金額(クーポン、ポイントその他の値引きを差し引いた額)をいう。顧客に返金した金額及びキャンセル料は、返金又は受領をした月の売上に加減する。

第2項

予約サイトその他の決済事業者に支払う手数料は、売上から差し引かない。(差し引く場合は、その手数料の範囲を明記する。)

第3項

乙は、毎月〇日までに、前月の売上をメニュー別及び支払方法別に区分して甲に申告し、甲は、予約システムの記録と照合して歩合の額を算出し、根拠を示した明細を乙に交付する。乙が明細の交付から〇日以内に異議を述べないときは、明細のとおり確定する。

異議の期間が極端に短いと、一方的な定めと受け取られます。

更新と解約の期限は、日付で数える

通知の期限と終了日の例(仮定の数字)

  • 席料30,000円、1か月ごとの自動更新、退去を希望する月の前月15日までに通知、過ぎたときは通知した月の翌々月末に終了。11月末の退去を希望して10月13日に通知(期限内)11月末に終了追加の席料なし
  • 同じ条件で10月24日に通知(期限後)通知した10月の翌々月末の12月末に終了12月分30,000円が追加で必要

更新を拒絶できる期限が二つ並んでいる、通知の宛先が店の一方向だけになっている、という書き方は、どちらが優先するかの争いのもとです。期限は一つにそろえ、どちらの当事者からも通知できる形にします。

利用者の都合による解約や退去では既払いの席料を返金しない、という定めは実務で多く見られます。この定めが店の都合で席が使えなくなった期間にまで及ぶ書き方だと、使えない期間の席料も払い続けることになります。店の都合の場合は、日割りの返金か翌月分からの減額を、分けて書きます。

ライト・電源・粉塵・におい、そして時間の区切りをどう書くか

他の美容系との違いが最も表れるのが、設備と環境の条項です。「危険物や臭気物の持ち込み禁止」と一言で書かれていると、ネイルの日常の材料が禁止なのか分かりません。席で実際に使うものを、条文の言葉にします。

持ち込み機器は、申告と同時使用の上限で決める

ジェルライト、ネイルマシン、集塵機などの機器は、名称と台数を事前に店へ申告し、承諾を得たものだけを使う形にします。あわせて、席ごとの電気の容量と、同時に使える台数の上限を決めます。ブレーカーが落ちると、その席だけでなく隣の席の施術まで止まることがあります。借りる側は、自分の機器を置いておける場所があるか、持ち込んだ機器が原因の発熱や故障は自分の責任になることを確認します。

粉塵、におい、溶剤、廃棄物、汚れ

削りかすは、集塵機を使って机や床に残さないことを義務にします。においは、「強いにおいの材料の使用禁止」とだけ書くと、アクリル系の材料のようににおいが強く出る材料を日常的に使う施術者との間で、何が禁止かの争いになります。事前に申し出て、換気設備を作動させ、指定した席で使う、という条件つきの形にすると、守れるルールになります。

除光液やクリーナーなどの溶剤は可燃性のものを含みます。持ち込む量の上限を決め、蓋のある容器に入れ、火気や熱源から離し、時間外は持ち帰るところまで書きます。保管の量が多くなると消防法の規制の対象になる場合があるため、上限は建物の使い方と合わせて決めます。使用済みのコットンやジェルの付いた廃材は、店で捨ててよいのか持ち帰るのかを決めます。ジェルやカラーの付着による汚れや変色は、養生シートで防ぎ、汚れたら直ちに除去する、と決めておくと、退去のときの費用の争いを減らせます。

設備と環境に関する条文例(要点)

第1項

乙が席に持ち込む機器(ジェルライト、ネイルマシン、集塵機その他電気を使用する機器)は、あらかじめ甲に名称及び台数を申告し、甲が承諾したものに限る。乙は、甲が定める同時使用の上限を超えて使用してはならない。

第2項

除光液その他の可燃性の溶剤は、甲が定める量の範囲内で持ち込み、蓋のある容器に入れて火気及び熱源から離して置き、予約の時間外は席に置かず持ち帰る。

第3項

乙は、アクリル系の材料その他強いにおいを生じる材料を使用するときは、あらかじめ甲に申し出て、甲が指定する席で、換気設備を作動させて使用する。

第4項

材料の付着により机、床、椅子等に生じた汚れ及び変色は、通常の使用による損耗に含まれない。乙は、養生シートで汚れを防ぎ、汚れが生じたときは直ちに除去し、除去できないときは甲に報告する。

数字は店の設備に合わせて決めます。「危険物」の一語で済ませず、席で使う材料と機器の言葉で書くのが要点です。

時間:準備と片付けも枠に入れ、遅れを織り込む

ネイルの施術は、お客様の遅刻、オフに時間がかかる、デザインの追加といった理由で延びがちです。時間を区切って席を使う契約では、入室できる時刻から、準備、片付け、退出の報告までを一つの枠にします。

3時間の枠で、施術が延びたときに起きること

10:00〜10:30準備。ライトやマシンの設置、消毒。枠に含める
10:30〜12:30お客様の施術(予定2時間)
12:30〜12:50遅刻とデザインの追加で延びる。片付けの時間が削られる
12:50〜13:00片付け、清掃、退出の報告。本来は30分を見込む時間
13:00〜次の利用者の枠が始まる。はみ出すと延長料金や違約金の問題

予約あり 予約なし 確定していない時間 問題になる場面

延長料金、無断延長の違約金、次の利用者に支障が出たときの違約金と、類型ごとに定額を並べると、同じ出来事に複数が重なって請求できる形になりがちです。定額の違約金は、法律上、賠償額の予定と推定されます(民法420条3項)。実損を別に請求したいならその旨を書く必要があり、重なる総額が過大になれば公序良俗(民法90条)の観点から争われます。延長料金、違約金、実損の関係は、同じ条の中で整理します。

お客様の情報・お直し保証・回数券・写真は、誰のものか

お客様の帰属は「どこから来たか」で分ける

席貸しの形では、施術者が自分の予約ページやSNS、紹介で集めたお客様は施術者のもの、店の広告や店の予約窓口から来たお客様は店のもの、と分けるのが実務で多い書き方です。どちらも、相手が管理する情報を承諾なしに自分の営業に使わないことを定めます。店が予約を受けて割り振る業務委託の形では、お客様は店のお客様で、施術者が個人のLINEやSNSでお客様に連絡することを禁じる定めが置かれます。

ネイルのお客様は施術者を指名して来ているため、退去後の競業を広く禁止しても、お客様の自由な来店は止められず、争われやすい定めです。禁止するなら、店が預かる顧客情報の持ち出しと、店経由のお客様への勧誘に絞り、施術者が自分で集めたお客様への案内は認めます。

カウンセリングシートと施術の記録の置き場所

アレルギーの申告や通院、妊娠の有無を書いたカウンセリングシートは、健康に関わる情報を含みます。顧客台帳を検索できる形で事業に使っていれば、個人のネイリストも個人情報取扱事業者です(個人情報保護法16条2項)。書面で本人から情報を受け取るときは、あらかじめ利用目的を明示します(同法21条2項)。施術同意書は施術同意書の作り方、規約とプライバシーポリシーはネイルサロンの利用規約・プライバシーポリシー・特商法表記で扱っています。

面貸しで特有なのは、情報の置き場所が店と施術者に分かれることです。店の共用タブレットでシートを書いてもらう、店の予約システムに履歴が残る、という運用では、誰が管理し誰が見られるかを決めます(安全管理措置は同法23条)。施術者の退去時に、店が管理する顧客データを渡すことは、お客様本人の同意なしには第三者への提供になります(同法27条1項)。防犯カメラは玄関や共用部など必要な範囲に置き、施術の席の内部を常時撮影しない、と決めておくと、お客様の理解も得やすくなります。

お直し保証と回数券は、席を離れた後も続く

施術後の一定の日数内に不具合があれば無償で補修する「お直し保証」は、席貸しの形ではお客様と契約した施術者本人の債務です。ところが補修には席が要ります。退去後に保証期間が残るお客様の補修を誰がどこで行うかが書かれていないと、お客様だけが取り残されます。決め方は、施術者が別の場所で行う、退去後の一定期間は補修のためだけに店の承諾を得て席を予約できる、店が引き受けて費用を請求する、の三つです。保証の期間や条件はお客様に示す規約の側に書きます(ネイルサロンのキャンセル料と無断キャンセル・お直し保証)。

施術者が自分で売った回数券やコースの前払いが退去時に残ると、残りの扱いが宙に浮きます。返金か別の場所での施術かは施術者の責任と決めます。店が決済を受けて代金を預かる運用なら、精算の時期と返金の主体を別に決めます(ネイルの回数券・コース契約書)。

作品の写真とSNS、デザインの著作権

席で撮影した作品の写真の権利は施術者に属し、店が広告やSNSで使うときは事前の承諾を得る、と書くのが、席貸しの形では自然です。反対に、施術者が店の名前や内装を映す投稿にも、他の利用者やお客様を映り込ませないといった基準が要ります(ネイルモニターの契約とSNS集客)。

ネイルに固有の論点が、キャラクターや企業のロゴを爪に再現したデザインです。他人のキャラクターの絵柄を爪に描く行為は著作物の複製にあたりえて(著作権法21条)、その写真をSNSに投稿すれば公衆送信の問題も生じます(同法23条)。権利者の許諾の要否は施術者の責任で確認すること、店の公式アカウントが投稿を紹介するときは店が掲載する側になるため事前に施術者へ確認することを、条文にしておきます。

お客様の情報・お直し・回数券・写真の条文例

第1項

乙が自己の予約ページ、SNS又は紹介を通じて得た顧客の情報は乙が管理し、甲が運営する予約窓口を通じて得た顧客の情報は甲が管理する。いずれの当事者も、相手方が管理する顧客の情報を、書面による承諾なく自己の営業のために使用してはならない。

第2項

乙が本契約の終了前に施術した顧客に対する補修(施術後〇日以内の無償の補修)は、乙が自己の責任で行う。乙は、本契約の終了後〇日間に限り、補修のためにのみ、甲の承諾を得て席を予約して使用することができる。

第3項

乙が顧客から前払いで受け取った回数券又はコースの代金の残りは、本契約が終了するときに、乙が自己の責任で顧客に返金し、又は他の方法で施術を提供して精算する。

第4項

乙は、第三者の著作物(キャラクター、ロゴ等)を再現したデザインの写真を投稿するときは、権利者の許諾の要否を自己の責任で確認する。甲は、乙の投稿を甲の公式アカウントで紹介するときは、あらかじめ乙に確認する。

第2項と第3項は、施術者が席を離れた後のお客様を守る条項です。店にとっても、退去した施術者のお客様からの問い合わせに答える根拠になります。

事故が起きたとき、店が閉まるとき、席を離れるとき:責任と終わり方

席貸しでは、施術者が自分の名義でお客様と契約するため、施術が原因の事故は施術者の責任、建物や設備の管理が原因の事故は店の責任、と原因で分けるのが基本です。ネイルの類型ごとに整理します。

ネイルで起きやすい事故と、責任の置き場所

事故の類型責任を置く場所と、先に決めること
アレルギー反応、かぶれ施術者。申告書の記録を残し、事故を認識したら店へ速やかに報告する
熱さ、やけど施術者の使い方が原因なら施術者。店の備え付けの機器の不具合が原因なら店
爪の損傷、道具による傷施術者。応急の手当てとお客様への連絡の主体を決める
転倒、コンセント周りの発熱店。建物と設備の管理に属する事項

「店は一切責任を負わない」と書くと、床や電気設備の不備による事故まで免責するように読めます。原因で分けて書いたほうが、免責条項全体の効力を保ちやすくなります。

賠償責任保険への加入は、「強く推奨する」と書いても、未加入のときに施術者が責任を負うことは変わらないため、何も決めていないのと同じです。義務にするなら、施術の事故を補償の対象に含めること、証券の写しを利用の開始時に出すこと、変更や失効を通知することまで書きます。店が一括で保険に入る運用では、被保険者に施術者が含まれるかを確認します。

お客様に見せる表示と、免責の書き方

お客様から見ると、施術を受けたのは店の中です。施術を行うのも契約の相手も各施術者であることを、予約画面、料金表、領収書に表示し、苦情の窓口と返金の負担者も契約書と同じ内容にそろえます。責任の限定を入れるなら、「一切責任を負いません」という全部の免除は、消費者に生じた損害を賠償する責任を全部免除する条項として無効です(消費者契約法8条1項1号・3号)。責任の一部を免除する上限を置く場合は、事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失による場合を除くことを、上限を定めるその一文の中に書きます(同条3項)。

お客様向け表示の条文例(責任の上限を置く場合)

第1項

施術は、各施術者が自己の名義及び責任において行います。施術のご契約の相手方は、ご予約時に表示する施術者です。

第2項

施術者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失による場合を除き、施術者が施術に関して負う損害賠償の額は、当該施術の料金の額を上限とします。ただし、お客様の生命又は身体に生じた損害については、この上限を適用しません。

故意又は重大な過失による場合を除くことを上限の文の中に書かないと、条項全体が無効になるおそれがあります。

席を離れるとき、店が閉まるとき

店が借りている建物の契約には満了の予定日があります。その日を契約書に開示し、更新されないときは一定の予告期間をおいて契約を終えられる、と書いておく方法があります。

ネイルの施術者が退去するときの段取り

  1. 退去の日を決める通知の期限と方法を契約書に合わせ、最後に席を使う日と、鍵や入館の権限を返す日を決めます。
  2. 退去日以降の予約を整理する予約済みのお客様に誰がいつ案内するかを決めます。どちらかが先に案内すると、引き抜きと受け取られることがあります。
  3. お直し保証と回数券の残りを確認する補修を誰がどこで行うか、前払いの残りを誰が精算するかを、契約書の定めで確かめます。
  4. 予約システム・SNSと、情報・私物を整える施術者のページや紹介投稿をいつ削除するか、カウンセリングシートの返却や消去、席の汚れの確認を、記録に残して行います。

よくある失敗と直し方:ネイルの面貸し契約でよく見られる書き方

実務では、次のような条項が使われていることがあります。ネイルの現場に合わせた直し方を並べます。

よく見られる書き方と、整えた書き方

資格と届出

変更前利用者は、ネイリスト技能検定その他必要な資格、営業許可、届出を取得し、営業前に完了していることを保証する
変更後法令上必要な資格や届出がある場合は利用者が取得する。検定など民間の資格は法令上の要件ではないため、募集の条件にするときは等級と確認の方法を別に書く。メニューを追加するときは事前に店へ申告する

民間の検定を法律上の資格と並べると、何を保証し何に責任を負うのかが読み取れません

返金

変更前解約や中途退去による返金は行わない
変更後利用者の都合による解約や退去では返金しない。店の都合(建物の事情、設備の停止、店による利用停止)で使えなかった期間は、日割りで返金するか翌月分から減額する

前の書き方では、店の事情で使えない期間の席料まで払い続けることになります

設備の事故

変更前店は、設備の利用によって生じた事故について、利用者の責めに帰すべき事由によらない限り、いかなる責任も負わない
変更後原因が利用者の使い方にあるときは利用者が、建物、床、電気設備、備え付けの機器の欠陥や管理の不備にあるときは店が、責任を負う

前の書き方は、利用者に責任がなければ店も責任を負わないとも読め、誰が負うのかが逆になります

秘密情報と投稿

変更前施設のレイアウト、備品の配置、施術環境の写真を秘密情報とする
変更後作品の写真は手元と作品を中心に撮る。他の利用者、お客様、店の内装から特定されるおそれのある映り込みは避け、店名のタグ付けは店が示す基準に従う

施術環境の写真を秘密にしたままでは、作品を撮るたびに背景が映って違反になりかねず、SNSでの集客を認める契約と矛盾します

ヒヤリングで確認すること:借りる側と貸す側の、それぞれの問い

借りる側(ネイリスト)が、契約の前に確認すること

  1. 店が借りている建物の契約は、席を他人が使うことを認めていますか。大家の承諾はありますか。承諾がないと、店の契約が解除されたときに席を使えなくなるおそれがあります(民法612条)。
  2. 席料に含まれる電気、備品、消耗品は何ですか。歩合があるとき、売上は定価、実際の支払額、手数料を引いた額のどれで数えますか。数え方で、月に数千円、年間で数万円の差が出ます。
  3. 予約ページは誰の名義ですか。退去したら、予約の履歴とお客様の連絡先はどうなりますか。店の予約システムに履歴が残る形だと、退去後にお客様へ案内できないことがあります。
  4. 賠償責任保険は、アレルギーややけどなど施術の事故を補償の対象にしていますか。店の保険の被保険者に施術者が入っていないと、事故が補償されないことがあります。
  5. 解約の通知の期限と、期限を過ぎたときの終了日はいつですか。店の都合で使えない期間の席料はどうなりますか。期限を過ぎると、さらに1か月分の席料がかかることがあります。
  6. 店の建物の契約は、いつまでですか。更新されないとき、どれだけ前に知らせてもらえるかを知るためです。

貸す側(オーナー)が、契約書を作る前に確認すること

  1. 席は何席で、どの時間帯に何人が同時に使いますか。電気の容量はどれだけですか。同時使用の上限を数字で決めるためです。ブレーカーが落ちると他の利用者の施術も止まります。
  2. ネイル以外の施術をする人が入る可能性はありますか。まつげなど資格や届出が必要な施術が入ると、届出の名義の問題が生じます。入れないなら禁止事項に書きます。
  3. お客様の予約と決済は、店の窓口と利用者の窓口のどちらで受けますか。お客様の帰属、苦情の窓口、預かり金の扱いが、この答えで決まります。
  4. 利用者が回数券やコースを売ることを認めますか。辞めたとき、お直しの補修はどうしますか。席を離れた後のお客様の問い合わせは店にも来るため、前払いの精算と補修の責任を決めておく必要があります。
  5. 席の指定は誰がどの頻度で行いますか。私物を置いてよい範囲はどこまでですか。席が専用になっていく運用を防ぎ、賃貸借と見られる事情を減らす点検の基準になります。

よくあるご質問

ネイルのシェアサロンで席を借りるのは、賃貸借契約ですか。

契約書の題名や、席料と呼ぶかどうかでは決まらず、運用の実態で判断されます。同じ席を専用で使い続け、道具を置きっぱなしにするほど、民法601条の賃貸借に近い関係と見られる余地が出ます。席の指定を予約ごとに店が行う、時間外は道具を置かない、といった運用を契約の前提に合わせます。

席料に歩合を足す契約で、売上はどう数えるのですか。

定価で数えるのか、クーポンやポイントを引いた実際の支払額で数えるのか、決済手数料を引くのかで金額が変わります。本文の計算例では、同じ月でも数え方によって月に最大3,750円の差が出ます。売上の定義を契約書に書くことが大切です。

お客様がアレルギー反応を起こしたら、席を貸している店も責任を負いますか。

施術が原因の事故は施術者の責任、床や電気設備など店の管理が原因の事故は店の責任と、原因で分けて書くのが基本です。お客様向けの表示で、施術を行うのは各施術者であることを示しておくことも大切です。お客様向けに「一切責任を負わない」と書いても、全部の免除は消費者契約法8条で無効になります。

ネイリストが辞めるとき、お客様の連絡先やお直し保証はどうなりますか。

お客様がどこから来たかで、帰属を分けるのが実務で多い書き方です。店経由のお客様の情報は店が管理し、施術者が自分で集めたお客様は施術者が管理します。お直し保証は、退去後も施術者の債務として残るため、補修を誰がどこで行うかを契約書で決めておきます。

ネイルの面貸しに、資格や届出は必要ですか。

ネイルの施術だけであれば、美容師免許や美容所の届出は一般に求められないとされます。ネイリスト技能検定などは民間の検定です。ただし、まつげなど資格や届出が必要な施術を同じ席で行うと、別の問題が生じます。そのため、契約書で、メニューの追加を事前に店へ申告する形にしておきます。

あわせて読みたいページ

本ページは一般的な情報提供です。個別の店舗への当てはめは、提供するメニュー、スタッフの働き方、お客様が事業者か個人かなどによって異なります。書き方の例として紹介している内容は、一般に見られる書き方を整理した例で、特定の事業者や案件を示すものではありません。条文は e-Gov法令検索で確認しています。参考: e-Gov法令検索 / 消費者契約法(消費者庁) / 公正取引委員会 フリーランス法 / 個人情報保護委員会 / 厚生労働省 / 国民生活センター / 小規模事業者持続化補助金(商工会地区の事務局) / 同(商工会議所地区の事務局)

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