スクールで用意する書類の全体像
| 書類 | 役割 | ポイント |
|---|---|---|
| 受講契約書 | 受講生ごとに個別に結ぶ契約 | コース・金額・支払方法・受講開始日を受講生ごとに確定させる |
| スクール規約 | 受講生全員に共通のルール | 出欠・振替・禁止事項・教材の扱い・規約の変更 |
| 講師契約(講師規約) | 外部講師・所属講師との契約 | 報酬、品位、受講生との私的取引の禁止、教材の権利 |
| 認定サロン(認定店)規約 | 修了生を認定する制度を設ける場合 | 会費、名称・ロゴの使用、退会時の削除、商圏の保護 |
| プライバシーポリシー | 受講生・修了生の情報の扱い | 認定者情報を公開する場合はその利用目的 |
| 特定商取引法に基づく表記 | ネットで申込みを受ける場合 | 受講料、支払時期、キャンセル・返金の条件 |
ネイルスクールに、法定のクーリング・オフはあるか
特定商取引法の特定継続的役務提供は、エステ、美容医療、語学教室、家庭教師、学習塾、パソコン教室、結婚相手紹介サービスの7つに限られています。ネイルの技術を教える講座はこの中に含まれないため、期間や金額にかかわらず、特定継続的役務提供としての書面交付・クーリング・オフ・中途解約のルールは及びません。
ただし、電話や個別の面談での勧誘から契約に至る場合は、勧誘の方法によって電話勧誘販売や訪問販売としてのルールが及ぶことがあります。また、ネットで申込みを受ける場合は通信販売としての表示義務があり、受講生が消費者に当たる場合は、消費者契約法による不当な条項の無効も及びます。開業を目指して受講する個人が消費者に当たるかどうかは、受講の目的や実態によって判断が分かれうる点です。
受講料の分割払いと割賦販売法
スクールが自社で受講料を2か月以上・3回以上に分けて受け取る形は、割賦販売法の「割賦販売」に当たる可能性があります。同法の指定役務には「技芸又は知識の教授」という包括的な項目があり、特定継続的役務提供の7業種に当たらない技術講座でも、対象になりうるためです。該当する場合は、次のようなルールに従う必要があります。
- 契約の前に、現金提供価格・割賦提供価格・支払期間と回数・手数料率などの割賦販売条件を示す(割賦販売法3条)
- 契約の締結後、遅滞なく、法律で定められた事項を記載した書面を交付する(同法4条)
- 支払いが遅れても、20日以上の相当な期間を定めて書面で催告し、その期間内に支払われない場合でなければ、契約の解除や残額の一括請求はできない(割賦販売法5条)
- 契約を解除しない場合の遅延に対する損害賠償は、法定利率による遅延損害金までに制限される(同法6条2項)。解除した場合の上限は同条1項で定められている
なお、受講生が営業のために、または営業として契約する場合は、割賦販売法のこれらの規定は適用されません(同法8条1号)。開業を目指す受講生がこれに当たるかは、契約の実態によって判断が分かれうる点です。
事務所が見てきたスクールでは、「原則一括。信頼関係に基づき認めた場合のみ最大3回」「受講開始日までに3分の1以上を支払い、残りを翌月・翌々月に均等払い」といった設計がありました。カード会社の分割払いを使う場合は、受講生とカード会社との手続になります。
キャンセル・途中解約・返金は「段階制」が基本
スクールの契約で修正がもっとも多いのが、キャンセルと返金の部分です。初版でよく見るのは、「理由を問わず一切返金しない」「申込みと入金で役務の提供が始まったものとみなす」「クーリング・オフの対象外であることを承諾する」といった書き方です。しかし、全額不返金や、民法上の解除権を放棄させる条項は、消費者契約法により無効とされる危険が高いものです。事務所が修正したスクール規約では、次のような段階制に改めました。
| キャンセルの時期 | キャンセル料 |
|---|---|
| 受講開始日の1か月前まで | 無料(すでに提供した教材・動画などの対価は差し引く) |
| 1か月前の翌日から7日前まで | 受講料の50% |
| 7日前以降・当日 | 受講料の全額 |
受講開始前のキャンセル料は、同じ種類の契約でスクールに生じる平均的な損害を超える部分が無効とされうるため(消費者契約法9条1項1号)、割合は準備にかかる費用などから説明できる範囲で設定します。
- 「受講開始日」は、対面・オンライン・実技・マンツーマン・動画URLの提供のうち、最も早い日と定義する
- キャンセルの意思表示は、記録が残る書面・電子的な方法に限り、口頭では受け付けない
- 返金の振込手数料はスクールが負担し、受講生が払うキャンセル料の振込手数料は受講生の負担とする
- 死亡・長期入院などの事情がある場合は、協議のうえ減額・免除を検討する
受講開始後の途中解約については、提供済みの部分の対価と、未提供部分の一定割合を差し引いて精算する形が考えられます。受講料に何が含まれているか(動画の視聴、実技、マンツーマン、質問対応、卒業後のサポート)を分解しておくと、提供済みと未提供の区別がしやすくなります。
教材・キット・動画の扱い
- 教材・動画・テンプレートの複製、転載、販売、他の講座での利用を禁止する
- 講義中の録音・録画・スクリーンショット、ログインIDや閲覧URLの共有を禁止する
- 教材は受講生本人の私的な利用の範囲に限り、講師業・指導業を目的とした受講を禁止する例もある
- 契約終了後は、提供物の使用をやめ、求めがあれば返還・破棄する
- 材料キットの代金を受講料に含める場合は、途中解約したときにキットをどう精算するか(開封済み・未開封)を決めておく
検定・修了認定・ディプロマ
修了時にディプロマや認定を出す場合は、その意味を誤解させない書き方が大切です。事務所が作成した規約では、次のような点を定めました。
- 修了認定は講師資格を付与するものではないこと(講師資格は別の制度、または出していないこと)を明記する
- 初回の認定試験の受験料は受講料に含め(完納が条件)、再受験は有料とする
- 合否はスクールの判断によること、実施要項は別に定めること
- 認定は人格・能力・法令の遵守を保証するものではなく、認定後の活動にスクールは責任を負わないこと
- 信頼を著しく損なう行為があった場合は、認定を取り消せること
- 卒業後の「無期限サポート」を売りにする場合は、事業の継続が難しくなった場合に合理的な予告で終了できること、終了に補償・返金がないこと、成果を保証しないことをセットで書く
受講料に含まれる研修の範囲を明確にした修正例もあります。「マンツーマンの実技研修」とだけ書いていた部分を、誰のマンツーマンを誰が受けられるのか、一般の受講生は時間単価で別料金になるのか、まで書き分けました。
卒業後の競業・開業の制限
技術を教えることは、将来の競合を育てることでもあります。ただし、ネイリストを育てる講座の受講生の多くは、開業を目的にしています。卒業後の開業そのものを広く禁止する書き方は、講座の目的と矛盾し、過大な制限として争いになりやすいものです。期間の定めなく競合スクールの開設を禁止する条項も、過大とされる可能性があります。守りたいもの(教材・カリキュラム・認定名称)を明確にして、制限をそこに絞るのが現実的です。
認定制度を設ける場合は、認定前に施術を提供したり、認定名称・ロゴを使ったりすることを禁止しておきます。
講師との契約
| 項目 | 内容の例 |
|---|---|
| 報酬 | 講座1回ごとの定額、または受講料の一定割合(約7割とした例もある) |
| 講師の認定 | 上位の認定に合格してから講師認定テストを受ける流れ、認定は継続を保証しないこと |
| 品位 | 服装・身だしなみ、オンライン登壇の環境(回線・照明・背景)、SNSでスクール名を出すときの事前承諾、効果をうたう表現・医療的な表現の禁止 |
| 受講生との関係 | 金銭の貸し借り、物品の授受、個別の契約や共同事業の提案の禁止。範囲外の相談・苦情は自分で処理せず報告する |
| 教材の権利 | 講師が作った教材・SNSの文案の権利の帰属と、著作者人格権の扱い |
| 働き方 | 時間・場所の拘束を課さないこと(報告書の提出を報酬の条件にする場合は整合に注意) |
認定サロン(認定店)制度を設けるなら
- 認定の対象は施術者個人か店舗か。法人が申し込んでも、認定されるのは所属する施術者個人とした例がある
- 月会費の支払日、返金・日割りの有無、金額を変更するときの予告期間(例:1か月前)
- 会費の滞納があった場合の認定の停止・解除
- 退会は30日前までに申請し、退会後は名称・ロゴ・認定証・SNSの表記を削除・返却して報告する
- 再入会には再審査と再試験を求め、過去の認定期間は通算しない
- 商圏の保護(本部から半径2km以内では認定しない、既存の認定店から1.5〜2km以内では新たに認定しない、距離は地図サービスの直線距離で測る、とした例)
- ビフォーアフター画像を広告に使う場合は、虚偽・誇大・医療類似の表現を禁止したうえで許諾する
オンライン受講と、規約の変更
- 対面とオンライン・動画配信を組み合わせる場合、それぞれの提供範囲と期間を書く(動画の視聴期限と質問対応の終了時期は別に決める)
- 通信環境は受講生の費用と責任で整え、スクール側のシステム障害時の扱いを決める
- 電子的な通知が届いたものとみなす時点と、登録情報の変更を届け出なかった場合の扱い
- 規約を変更する場合は、民法の定型約款のルール(548条の4)に沿い、効力発生日の7日前までに通知する、など手順を決めておく
- モニター価格で受講してもらい、SNSで紹介してもらう場合は、広告であることを示す表示(ステルスマーケティング規制)までお願いしておく
- 全額不返金・解除権の制限・クーリング・オフ対象外の承諾を並べた初版を、受講開始日の定義を伴う段階制のキャンセル規定に改めました。
- 認定制度の「準会員」が会費や権利を持つ会員なのか曖昧だったため、区分を一本化し、「認定前は施術・名称の使用・教材の共有を禁止」という一条にまとめました。その際、一部の条文に旧い用語が残っていたため、定義語を変えたときは全条文を確認しています。
- 別の団体の雛形を流用した結果、締結条項の主語が「当協会」のまま本文と食い違っていた契約書を、当事者の表記に統一しました。条番号の欠番も版をまたいで残っていたため、あわせて直しました。
- 講師規約にも「精読し同意します」のチェック欄と、住所・氏名・記入日の欄を加え、同意の証拠を残せるようにしました。
よくあるご質問
ネイルスクールの受講料は、途中解約されたら返金が必要ですか?
ネイルの技術講座は特定継続的役務提供に当たらないため、特定商取引法上の中途解約権はありませんが、契約書の返金ルールは消費者契約法の審査を受けます。「一切返金しない」とする条項は無効とされる危険が高いため、段階制のキャンセル規定と、提供済み部分の精算方法を決めておきます。
受講料を分割で受け取っても大丈夫ですか?
スクールが自社で2か月以上・3回以上に分けて受け取る場合は、割賦販売法の割賦販売に当たる可能性があります。書面の交付、支払遅延時の書面催告、遅延損害金の上限などのルールを確認してから始めましょう。
修了生がすぐ近くで開業するのを禁止できますか?
受講の目的が開業である以上、開業そのものを広く禁止する条項は過大とされやすいものです。教材・カリキュラム・認定名称など、守りたいものに制限を絞るのが現実的です。
ディプロマを出すとき、気をつけることはありますか?
修了認定が講師資格を意味しないこと、認定後の活動にスクールが責任を負わないこと、認定を取り消せる場合があることを規約に書いておきます。
講師に業務委託するとき、何を決めればよいですか?
報酬の決め方、品位に関するルール、受講生との私的な取引の禁止、教材の権利の帰属、時間・場所の拘束をしないことなどを、講師契約や講師規約で決めておきます。
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本ページは一般的な情報提供です。個別の店舗・スクールに必要な対応は、提供内容、料金の受け取り方、申込みまでの流れによって異なります。実務傾向に関する記述は、アトラス行政書士法人が作成・レビューしてきた美容系サロン・スクールの契約書・規約を、個別の事業者が特定できない形に整理したものです。参考: e-Gov法令検索 / 消費者庁 特定商取引法ガイド / 公正取引委員会 フリーランス法 / 個人情報保護委員会