回数券の申込契約書に入れる項目
| 項目 | 決める内容 | 決めていないと起きやすいこと |
|---|---|---|
| 券種と金額 | 回数、総額、1回あたりの単価、通常価格との差額(割引額) | どの券を買ったかの争い、中途解約時の精算で揉める |
| 有効期限 | 起算点(購入日か初回施術日か)、期間、期限後の扱い | 使い切れない回数の扱いで不満が出る |
| 支払方法 | 一括か分割か、分割の回数と最終期限、手数料の負担 | 未払いのまま施術が進む |
| 予約・キャンセル | 期限、当日キャンセル・無断キャンセルの扱い、1回分の消化 | キャンセル料と回数券の消化が二重に請求される |
| 中途解約・返金 | お客様都合と店都合の区別、返金額の計算方法 | 全額返金・全額不返金の両極端で争いになる |
| 譲渡・共有 | 家族などとの共有を認めるか、認める場合の手続 | 知らない人が来店し、問診ができない |
| 価格改定・閉店 | 購入済みの券への影響、店都合で終了する場合の返金 | 値上げ・閉店時の苦情 |
有効期限は「起算点」と「長さ」の2つで決める
有効期限の起算点には、「購入日から」と「初回施術日から」の2通りがあります。初回施術日から数える形は、買ったまま来店しないお客様の期限が進まないため、お客様に有利です。その代わり、いつ期限が始まったかを店側が記録で示せるようにしておく必要があります。
期間の長さは、店によって大きく違います。事務所が見てきた例では、「回数+1か月程度」(6回券なら7か月)と余裕を持たせた設計がある一方、回数の多い券でも初回から60日しかない、という極端に短い設計もありました。
あわせて、資金決済法との関係も確認します。店のサービスにだけ使える回数券でも、有効期限が発行日から6か月以内であれば前払式支払手段の規制の対象外です(資金決済法4条2号、同法施行令4条2項)。6か月を超える期限にすると、3月末・9月末の未使用残高が1,000万円を超えた場合に、届出(同法5条1項)や、未使用残高の2分の1以上の発行保証金の供託など(同法14条1項)が必要になります。
中途解約と返金は「誰の都合か」で分けて書く
ネイル施術だけの回数券は、特定商取引法の特定継続的役務提供に通常当たらないため、同法による中途解約の権利や違約金の上限(同法49条)はありません。その分、契約書に書いた返金ルールが結論を大きく左右します。ただし、民法上も途中でやめる権利があるとされる場面があり(民法651条など)、返金ルール自体も消費者契約法の審査を受けます。
- 契約の解除に伴う違約金や損害賠償の予定は、同じ種類の契約で店に生じる「平均的な損害」を超える部分が無効になります(消費者契約法9条1項1号)。
- 消費者の利益を一方的に害する条項は無効になりえます(同法10条)。「いかなる理由でも返金しない」という一律の言い切りは、場面によって通りません。
| 場面 | よくある書き方 | 注意したい点 |
|---|---|---|
| お客様の都合で途中解約 | 支払済み金額から「通常単価×消化回数」と所定の手数料を差し引いて返金 | 割引は回数券を使い切ることを前提とした特典だと明記しておくと、通常単価で精算する根拠になる |
| 店の都合で継続できない | 未使用回数分を返金する | 店都合でも返金しない条項は不当とされる危険が高い |
| 天災・感染症など | 有効期限を延長する、代わりの日程を提示する | 延長の判断基準と通知方法を決めておく |
| お客様の転居・体調 | 協議のうえ延長・返金を検討 | 診断書などの確認資料の扱い |
分割払いは「デポジット+短期」が現実的
回数券は一括前払いが原則ですが、高額になるほど分割の要望が出ます。事務所が修正した回数券契約では、次のような設計に落ち着いた例があります。
- 分割は店が承諾した場合の例外とし、現金払いに限る
- デポジット(内金)を先に受け取り、残りを2〜3回に分ける。最終の支払期限は初回施術日から30日以内
- デポジットの金額は「原則○円以上・支払える金額を確認のうえ」と柔軟にする
- 残額が払われないときは、受け取ったデポジットを未払いの残額に充てたうえで、不足分を請求できる
- 契約の効力は、初回の支払(デポジット)が済んだ時点で生じる
店が自社で代金を2か月以上・3回以上に分けて受け取る形は、割賦販売法の「割賦販売」に当たるかどうかの検討が必要になります。対象になるかは提供する役務の種類によって変わるため、自社で長期の分割を受ける場合は、始める前に確認しておきましょう。クレジットカードの分割払いは、お客様とカード会社との手続になります。
予約キャンセルと「1回消化」の設計
回数券と予約キャンセルの関係は、もっとも問い合わせの多い部分です。事務所が見てきた規定には、次のような段階を付けたものがあります。
| 状況 | 扱いの例 |
|---|---|
| 前日の営業時間内までの連絡 | 無料で変更・キャンセル |
| 期限を過ぎた連絡(当日キャンセル) | 初回・2回目は請求せず、3回目から所定のキャンセル料 |
| 10分以上の遅刻 | 施術時間を短縮して対応。次の予約に支障がある場合は当日キャンセル扱い |
| 無断キャンセル | 回数券1回分を消化扱い。ただし初回ややむを得ない事情は個別に判断 |
「前日○時以降は1回消化」という条項は、お客様から見れば違約金に近い性質を持ちます。予約枠を押さえていたことによる損失など、根拠を説明できる範囲にとどめるのが安全です。通信障害などで連絡できなかったことを示せる場合は消化しない、といった「やさしい例外」を書いておくと、サロンらしい運用と両立できます。
キャンセル料を取らない店もあります。その場合も、「キャンセル料はいただきませんが、無断キャンセルや当日キャンセルが続く方は、以後のご予約をお断りすることがあります」と書いておくと、運用の根拠になります。
価格改定・閉店・一人サロンの特約
- 料金表に「運営コストの変動により料金を改定することがある」「改定時は事前に案内する」と注記し、購入済みの回数券には改定が及ばないことも書いておく
- 一人で運営するサロンは、「家庭の事情や体調不良により、ご予約日時の変更をお願いすることがある」と特約で明示しておく
- 閉店・長期休業で施術を続けられない場合の返金方法と、連絡の手段を決めておく
- 回数券を使い切った後の1回あたりの優遇料金を契約書に書いておくと、継続来店のきっかけにもなる
譲渡・共有を認めるかは、店の方針で決める
回数券は「本人限り・第三者への譲渡禁止」とする設計が一般的ですが、家族や友人との共有を認める店もあります。どちらを選ぶ場合でも、契約書に書いておかなければ紛争の種になります。共有を認める場合は、施術を受ける人ごとにカウンセリングと施術同意書を取る運用にしておく必要があります。
カード決済の「チャージバック」に備える
高額の回数券をクレジットカードで販売すると、お客様がカード会社に支払いの取消しを申し立てる「チャージバック」が起きることがあります。事務所が修正した回数券契約では、カード会社や決済代行会社から照会があったときに、契約書の内容を開示できることにお客様があらかじめ同意する条項を加えました。申込書にチェック欄で券種を選んでもらい、署名と日付を残しておくことも、後からの確認に役立ちます。
- 当初は「お客様の都合でも店の都合でも返金しない」としていた契約を、「店の都合で継続できない場合は返金する」(その事例では未使用回数分の半額)に改めました。店都合で返金ゼロは、不当な条項とされる危険が高いためです。ただし、店都合で返金を一部に限ることも消費者契約法上問題になりうるため、現在は未使用回数分の全額を返金する設計をおすすめしています。
- 一括前払いのみだった契約に、デポジット+短期分割の例外を設け、さらにデポジットの充当と不足分の請求の手順を加えました。
- 料金表に価格改定の可能性と事前案内の一文を加え、回数券を使い切った後の優遇単価も明記しました。
- 有効期間内でも自己都合の解約は返金しない、という一文を依頼者のご要望で加えた例もありますが、消費者契約法上のリスクが残る点はあわせてご説明しています。
よくあるご質問
回数券の有効期限は何か月にすればよいですか?
来店の頻度から無理なく使い切れる期間にするのが基本です。資金決済法の規制を避けるという観点では、発行日から6か月以内とする方法があります。6か月を超える場合は、未使用残高が基準額を超えたときの届出等の義務を確認しておきます。
回数券を途中で解約したいと言われたら、返金しなければなりませんか?
ネイル施術だけの回数券には特定商取引法上の中途解約権はないため、主に契約書の返金ルールによります。ただし「一切返金しない」といった条項は、消費者契約法で無効とされる可能性があります。お客様都合・店都合で分けて、計算方法まで書いておくことが大切です。
割引した回数券を途中解約されたとき、通常料金で精算できますか?
割引が回数券を使い切ることを前提とした特典であることと、途中解約時には通常単価で消化分を計算することを、契約書に明記しておけば、その方法で精算しやすくなります。
回数券の分割払いを受けても大丈夫ですか?
店が自社で2か月以上・3回以上に分けて受け取る形は、割賦販売法の検討が必要になることがあります。デポジットを受けたうえで短期間の分割にする、カード会社の分割を利用してもらう、といった方法が現実的です。
無断キャンセルのとき、回数券を1回分使ったことにできますか?
契約書や規約に定めておけば可能です。ただし違約金に近い性質があるため、予約枠の損失など根拠を説明できる範囲にとどめ、やむを得ない事情には柔軟に対応する一文を添えておくと安心です。
あわせて読みたい、関連する別のガイド
- オンライン講座の受講契約でよくある3つの誤解オンライン講座開業の法務ガイド
- 高額カウンセリング・コーチング契約とクーリングオフ占い師開業の法務ガイド
あわせて読みたいページ
本ページは一般的な情報提供です。個別の店舗・スクールに必要な対応は、提供内容、料金の受け取り方、申込みまでの流れによって異なります。実務傾向に関する記述は、アトラス行政書士法人が作成・レビューしてきた美容系サロン・スクールの契約書・規約を、個別の事業者が特定できない形に整理したものです。参考: e-Gov法令検索 / 消費者庁 特定商取引法ガイド / 公正取引委員会 フリーランス法 / 個人情報保護委員会